『植村直己・夢の軌跡』湯川 豊著【2016年10月01日】
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著者の湯川豊さんは文芸評論家でエッセイスト。
文芸春秋に勤務していた時代に冒険家植村直己と知り合い、植村が死去するまで16年近くに渡り交流を続けていました。
本書は湯川さんからみた、植村直己という人物について様々な側面を記載した一冊となっています。
植村直己という冒険家がいたことは知っていましたが、さほど詳しい情報を持っていなかったため、この本を通じて深く学ぼうと手に取った次第です。
本書では、年譜の上での植村さんの事績を追うのではなく、多面的にテーマを構え、不出世の冒険家の肖像に迫るという手法を採っています。
湯川さんの立場からすると、植村さんは輝かしい業績を成し遂げた単純なヒーローというわけではなく、光と影を併せもった、魅力的な人間としてみえていたそうです。
読んでみて、植村直己という人物の様々な側面を知ることが出来ましたが、中でも独特な冒険スタイルを知ることが出来たのは特に印象深いものでした。
植村の冒険に対するきわだった表情。
それは、自然を克服するのではなく、自然にしたがうこと、適応するという点です。
「自然との共存」という視点に立った冒険スタイルは、きわめて日本人的であると感じました。
しかしながら、エスキモーの生活スタイルに適用しようとする記述の箇所は驚くことばかり。
部屋の中でトイレのしきりがなく、平気でみんなの前で排泄をする点など極寒の中で生活を続けている住環境だからこそ習慣化されていった部分なのでしょう。
また、植村直己の人柄についても詳しく書かれ、それを献身的に支えた妻・公子さんの存在もとても大きかったということがわかりました。
植村さんが家庭にいる時は、月に1度ほど、公子さんの前で、生理みたいに怒りが爆発して、公子さんがその怒りを受けとめる役になっていたそうです。
そして、植村の怒りの爆発は異様といってもよいタイミングで突然訪れ、二日くらい続くのです。
湯川さんは、外で愛想がいい分、知らずに何かがたまっていくのだろうと推測しています。
植村の怒りをしっかりと受け止めているあたりは、公子さんの度量の深さを感じ、公子さんだからこそ植村を支えられていけたのでしょう。
冒険に関するエピソードも満載で自然の脅威がまざまざと伝わります。
特に、北極圏を横断する犬ぞり旅行で、途中犬が散り散りになり、失ってしまうシーンが何度か象徴的なシーンとして何度か登場します。
死に直結する出来事なので、もし自分が北極のど真ん中でこんな状況に陥ったらと感じると背筋が寒くなります。
このように日々死と向き合わせで過ごしているとその人しかわからない境地というものが出てくるものなのでしょう。
最終章では植村の死について書かれていますが、あまりにもあっさりとした最期であり、自然の冷酷さも伝わります。
冒険家というのはとても危険な仕事であり、それでも冒険を続けているというは本能に訴える極上の愉しさもあるのでしょう。
仕事を行う上での覚悟が常人とは全く異なるものです。
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