『真説・長州力』田崎 健太著【2017年01月01日】
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それほどコアといわけではありませんが、子供の頃からプロレスが好きで、何度か会場に足を運んだり、今も時折雑誌で流れをチェックしています。
長州力といえばプロレス界のスーパースターの一人であり、本書を読み、これほどの大物でも現役を引退する最後まで苦しみ、のたうちまわっていたという事を知り、ショックを受けました。
改めてプロレス団体の経営の厳しさを知り、長州さんもそのまま突っ走り続けていたら、三沢光晴さんのようにいつかはマット上で死を迎えていたのかもしれないと、恐ろしさを感じます。
著者の田崎健太さんはノンフィクション作家であり、これまで勝新太郎や伊良部秀輝といった人物に関する評伝を書いています。
本書は、原稿用紙700枚を超え、田崎さんにとって最長の作品になったそうです。
アントニオ猪木、マサ斎藤、佐々木健介以外は全員取材を受けてくれたそうで、かなり綿密に取材を重ね、長州力、そしてプロレス界について良い面も悪い面も立体的に浮き彫りにしています。
その取材力と魂の入り方には脱帽で、これこそプロ作家の仕事というものなのでしょう。
長州力こと吉田光雄が生まれた1951年から2015年までの半生を描いています。
まず序盤で興味深かったのは、長州力は人気が出るまで相当時間がかかったこと。
私が物心ついた時は既に人気レスラーになっていましたが、それまで大変苦労されていたとは知りませんでした。
オリンピックで韓国代表になるほどの実力者ですが、プロレスの世界では、強い人が成功するというわけではない。
インパクトを打ち出し、観客を魅了してナンボの世界であるということがよくわかりました。
他のスポーツと異なる独特の理論が働いているのです。
そして、長州力がブレイクするきっかけとなったのは、メキシコから帰国した直後の試合の「噛ませ犬事件」。
同じチームで、既に人気レスラーだった藤波辰巳に突然反旗を翻し、にわかに注目を浴びるようになったのです。
以後、ジャパンプロレスとして全日本に乗り込んだり、UWFインターとの全面対決を行ったり、大仁田厚との対決を行ったりと、プロレス界に残るバトルを刻んでいきます。
本書では、各団体の経営難の状況についても細かく、徹底的に書かれており、一見、華やかそうにみえる世界の裏では、お金にまつわるドロドロした事情が渦巻いていたことがわかります。
やがて長州もWJプロレス(ダブリュー・ジェー・プロレス)を立ち上げ、団体経営に参画することに。
しかしながら、スタートして僅か3か月で資金繰りに苦しくなり、運営が瞬く間に立ちいかなくなってしまう。
長州力の大物をもってしてでも興行がうまくいかないとなると、本当にプロレスの経営は難しいのだと思わざるをえません。
そして、それは素人ばかりが経営をしてしまう傾向があるというのも要因の一つなのでしょう。
長州力は現在、リキプロに所属し、試合には出ないながらも新日本プロレスの道場での練習は続けているそうです。
本書での最後の質問で、田崎さんは長州力に次の質問をします。
「長州さん、もう一度人生があったら、またプロレスラーになりますか?」
そして、長州力はこう答えるのです。
「あ、ならないですね」
「(なるとすれば)職人ですかね。見習いから始めながら修行をする、みたいな」
プロレス界で頂点に君臨した人でさえ、「生まれ変わったらもうプロレスラーになりたくない」と言ってしまう。
プロレスファンの私にとってはとても悲しいことであり、同時にそこにこそプロレスの底知れぬ魅力が潜んでいるのだろうと感じました。
プロレスは試合というよりもプロレスラーの人生そのものがエンタテイメントになっているのです。
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